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【本年も宜しくお願い致します。】   ぶなの実3F 森川

2011年01月03日 | ぶなの実::ぶなの実3F

(喪中につき、新年の挨拶は控えさせてもらいます。)
初めてのお正月を迎えました。ぶなの実ではようやく開設から半年が経ちました。この半年、あっという間だったというか、客観的に見て、私は必死でした。このぶなの実をどう運営していくか、昨年の夏の暑さを思い出せないほど悩みに没頭しておりました。
入居者さんは、きっと様々な想いが交錯していたと思います。それは、生まれて初めてグループホームに入居される方が、オープンから2、3ヶ月で一気にご入居されたからです。加えて、グループホームに勤務するのが初めてという職員も少なくありませんでした。この私も管理者として初めてだらけでした。入居者さんも職員も、皆さん初めてだらけの半年だったのです。その全体的な不安感を直接感じていた私は、何とかしなくてはと悩みが尽きませんでした。
そんな中、昨年10月28日に第一回の運営推進会議がありました。運営推進会議とは簡単に言いますと、入居者様、ご家族様、関係機関の方々、地域の皆様にご参加頂き、ぶなの実の普段の様子のご報告や、ご意見ご要望をお伺いする会です。
今回は初めてということで、ご参加者様皆様に自己紹介をして頂きました。
司会の私はとても緊張していて、ろくに頭も下げることができませんでした。そんな私に代わって入居者さんの方々はしっかりとご挨拶して下さいました。その姿は、私は初めて見る、入居者さんの皆様のかしこまった姿でした。
深々とお辞儀をされ、とても綺麗な日本語。落ち着いた口調や、慣れた挨拶。
例えば、ご入居者のFさんは、私とケンカをして、最後には私が泣いたことをお話しになりました。会議は和やかな雰囲気になりました。
この時気付いたのです。私は、ぶなの実を何とかしようと必死で、入居者さんに助けてもらう事を忘れていたのです。つげの実で勤務していた頃、私は入居者さんに沢山助けてもらいました。
それは、包丁の握り方一つ教えてもらったり、入居者さんの悩みを聞いているはずがいつの間にか自分の悩みを聞いてもらったりと、様々です。
本当に感謝の気持ちで一杯です。
初めてのお正月を迎えました。お餅を食べました。
私は入居者さんが餅を喉に詰らせないか、ハラハラしながら、きっと恐い顔で一緒に食べていました。ふと、Nさんが私に言います。「ゆっくり食べないとね、喉に詰らせたら大変だからね」。
気を張っていた私の線が、少しだけ緩みました。笑顔でお雑煮を食べることができました。また一つ助けられたのです。
こうして少しずつ少しずつ、入居者さんに助けてもらい、ぶなの実は成長していきます。
これからも宜しくお願い致します。

15:42 | Posted by admin

【「東京での生活。」】   ぶなの実1F 鈴木(勇)

2011年01月03日 | ぶなの実::ぶなの実1F

はじめまして、ぶなの実の鈴木勇一と申します。ぶなの実には鈴木が2人いるので僕は下の名前の勇一さんと呼ばれています。鈴木が2人いると「鈴木さん」って呼ばれた時に2人同時に振り向いてしまい、どっちを呼んでいるのかわからなくなるので、僕の希望で下の名前で呼んでもらうようお願いしました。
僕は8月に栃木県から東京に越してきて、すぐにグループホームでの仕事を始めました。住んでいる部屋は北区にあるシェアハウスで約20人住んでいます。個室を借り、キッチン、トイレ、洗濯機は共同です。
最初は3ヵ月のみ生活したらすぐに出ようと思っていましたが、キッチンのレイアウト変更、少しずつ話をする相手も増えてきたのでこのまま住み続けることにしました。
住んでいる人達はタクシー運転手のおじさん、大学5年生と言い張る24歳男性、1ヵ月風邪をひいたまま完治しない腐女子、関西から来た人、中国人女性、昼はサラリーマンで夜はホストの人、ヘビースモーカー(女)などユニークな人が多い(更に凄い人もいる)ので今の生活が凄く楽しいです。
グループホームの仕事は始めてから4ヵ月経ちますが、正直まだ慣れていません。注意されてばかりなのと、上手く仕事が出来ないことでストレスが溜まり、毎日のように部屋でお酒を飲んでいたことがありました。今は少しグループホームでの仕事が慣れてきた所で、注意をされることがあっても言っていただけていると感じるようになって、ありがたいことだと思うようになりました。
休日には周辺を散歩して、好きな洋服屋さんへ行き、行き着けの飲み屋もできて、週に1回か2回、新宿まで飲みに行っています。飲みに行くお店は日本酒がメインのお店でマスターお勧めの日本酒を飲むことができます。
料理も美味しいです!こだわりすぎの為、料理がくるまでに時間がかかるけど…。
お気に入りは「14代」と「和和和」と言う日本酒です。「14代」は最初に日本酒を注文した時に「日本酒を好きになってほしいから」とマスターが出してくれました。飲んでみると「美味い」というより、「美しい」と表現したくなるような味です。「和和和」は「和の心で和らぎ和んでほしい」という意味だそうです。お店に来るお客さんとも顔見知りが増えてきて可愛がってもらっています。
今回、はじめて「どっこいしょ」を書かせて頂くのですが、何を書いたらいいのかわからないので、僕の趣味の話を…。
アロマテラピーはご存知でしょうか?
このアロマテラピーは10代の時から続いている趣味なのですが、アロマオイルの「匂いを嗅ぐ」、「女性がやる」
と言うイメージが強いと思います。アロマは「芳香」、テラピーは「療法」で「芳香療法」とも呼ばれています。花、葉、樹脂、果物の皮などから抽出されるアロマオイルは約200種類以上あります。
最近では男性でもアロマテラピーを始める人も増えてきて男性向けのアロマオイル、アロマテラピーの教室もできてきました。僕が始めた時は女性ばかりで、少し偏見もあり、「男がアロマ?」とよく言われていましたが、男性でもアロマテラピーを始める人が増えてきたこともあり、アロマテラピーについて語れる仲間が増えてきたので嬉しく思います。
上級資格の試験が3月と9月にあるので習得して自分のこれからの人生や仕事に活かすことができたらいいなぁ…って思います。

15:42 | Posted by admin

【唄っていいねぇ~】   ぶなの実3F 西村

2010年12月03日 | ぶなの実::ぶなの実3F

ぶなの実では時々ご入居者の皆さんと唄を歌っています。スタッフが何気なく歌い始めると、すぐに一緒に合わせて歌ってくださいます。唱歌や昔の流行歌を思いつくまま選曲していますが、途中歌詞が思い出せなく中断してしまい、「何だっけ?」「えーと」「あら出てこない」(笑)と、なります。そんな時、何方かに振ってみます。ある時は今ひとつ乗りの悪いIさんに、「Iさん、李香蘭の蘇州夜曲ってデダシはどうでしたっけ?」と尋ねると、ニヤリと笑みをうかべ、ゆっくりと「君がみむねに~♪抱かれて聞くは~♯」と最後まで独唱され拍手喝采でした。またまた中断したときは、歌ってはいてもあまり声を出さないSさんに尋ねました。「浦島太郎の歌って?えーと?」Sさんは少し照れながら、「昔、むかし♪浦島は~」これまた最後まで独唱、皆さんから自然に拍手がおこりました。
唄は嚥下体操や脳トレーニングによいとされていますが、なによりも気持ちを明るくしてくれるようです。
昔の流行歌には皆さんそれぞれに思い出がおありで、〔談話室ぶなの実〕に様変わりする事があります。語らう時の表情はとても素敵で、至福の時代(とき)を過ごしたお話しは傾聴する者も幸せな気持ちになります。
「昔の唄はいいねぇ~」「こうして一緒に皆で歌えるのが又いいのよぉ~」とおっしゃいます。
わたしが八十歳ぐらいになったとき!? 果たして一緒に唄える歌があるのかしらん?

15:41 | Posted by admin

【「距離」】   ぶなの実1F 鈴木(佳)

2010年12月03日 | ぶなの実::ぶなの実1F

「初めまして、~です」…と言う書き出し以外にいいフレーズはないものだろうか?…ありましたが、ふざけ過ぎると指摘を受けそうなのでやめときます。
Bユニットには鈴木が2人。私は女子の方です。ぶなの実Bユニットが開設して二ヶ月…まだ?二ヶ月??
というのが正直な今の気持ち。仕事をしに家を出て、家に(と言うには近代的な建物ですが)行く。
鈴木「オハヨ~」、Aさん「おかえり~」と…朝8時。複雑です。
家族間では、十代の頃からおもに週末(に、限らず)こんな会話はよくありました。笑…が、状況が違うため複雑。
開設当初は入居者さんが一人でした。入居者さん目線で比較的若い私達が出入りし、一緒に食事作りをし、夜中も朝起きてきても何故か居る。。。
「あっ!住んでると思われてるっ!」Aさんは、今も私達はぶなの実に住んでいると思われている様です。住んだほうが楽だ…と思った事もあります。未経験で慣れない仕事で疲れていたようです。
既婚者なので帰らないわけにはいきません。支援を待っている旦那がいます。笑~
と、この例に限らず、非常に入居者さんとの距離感が難しい。
きちんと話してみたほうが良いのか?入居当初の不安定な状態で、悪い方に向かわないだろうか?「距離感」って、介護という仕事をしている限り消えない課題なのかなぁ…と、思う夜勤明け。目の下にはクマサン。答えがあるのか?ないのかも…う~ん。
今はまだ、見つかりそうにないので…そろそろ帰ろうかな。

15:40 | Posted by admin

【散歩道】   ぶなの実3F 国谷

2010年11月03日 | ぶなの実::ぶなの実3F

始めまして。ぶなの実で入居者さん方に名前を忘れられたら、一緒に指を出し『1、2、3、4、5、6、、、7!!ななっ!?』あっ!ななちゃんだぁー!と毎日恒例のように行ってる国谷です(笑)それがやけに楽しくて。少しでも覚えてもらえる事に日々感謝をしてます。
ぶなの実に来て三ヶ月になります。スタッフの皆とは、オープン前の準備を入れると四ヶ月になりますね。仕事を新たにスタートする時は不安が沢山ありました。ですが、今こうして勤め新たなスタートを前進してる楽しさ、喜びが毎日新鮮で私にとって入居者さんが恋人の様に。。。逢うのが楽しみです。
去年の3月横浜から東京に来てウダウダと三ヶ月経ち、四ヶ月経ち、やっとたどり着いたぶなの実っ!!
スタッフとの新たな出会い。入居者さんとの新たな出会い。新たなスタート。その前までは『感情、嬉しさ、楽しさ、笑顔』などわからずに生きていました。けれど、新たなスタートで笑顔ってこんなに楽しくて、こんなに悔しいと思う気持ちにもなり、自分にとって初めて思った気持ちでもあります。最近では入居者さんに『待つ』と言う意味や行動を教わりました。簡単なようで難しい。それを自分なりにマイペースに壁を乗り越えまた。新たな壁に打ちあたり悩み、泣き、笑い、考え、進んで行く事に気がつきました。私は一人ではなく入居者さん、スタッフ、共に教わり、叱られ一歩踏み出して行きたいです。もう一歩きしたく、最近では、入居者さんと一緒に楽しく写真ビデオに写り、一緒に見て笑い合いたいと思っています。(笑)
散歩をしている道乗りの中、石に躓きそれは、単なる小さな石であっても私にとって大きな岩みたいにでかい壁。
飛ぶのではなくスコップで時間がかかってても少しずつ崩し、どう進むのか一歩前進、前に進む新たな道を散歩中です。散歩は楽しいです。

15:40 | Posted by admin

【ある日、ふと思うこと】   ぶなの実1F 木村

2010年11月03日 | ぶなの実::ぶなの実1F

私は、高齢の猫を2匹飼ってます。私にとっては、大切な家族の一員です。マイペースな猫は、遊び、鳴き、食べ、気ままに過ごしてるように見えるのですが、それでも毎日、何かを訴えかけて来ます。言葉が通じない為、いったい何が望みなんだろう…と考えます。
同時に思うのは、利用者さんはどうしたら望み通り過ごされるのか…と、言う事です。水分摂取一つ取っても、脱水症状を起こさせない為に水分を取って頂かないといけない。もちろん、自立支援を目的としてるので「飲んで下さい」とは言えない。それでも、水分を取って頂くようにもっていく。それは「トイレが近くなるから水分は取りたくない」と言う、利用者さんの望みとは反してますが、脱水症状で倒れたら大変です。こんな細かい事に対してでも、利用者さんの「気まま」に過ごして頂けない事もある。でも、あくまでも、利用者さんの希望と利用者さんの為になる事が必ずしも一致しない。これが、見守り介護の日常生活の難しさだと思います。その中で、少しでも利用者さんの「望み」に近い生活に協力して、笑顔を見たいと思います。

15:39 | Posted by admin

【作業バランス】   ぶなの実1F 佐藤

2010年10月03日 | ぶなの実::ぶなの実1F

こんにちは。ぶなの実 一、二階のユニットのチーフとなりました佐藤と申します。宜しくお願い致します。
突然ですが、僕が入居者様の生活を見る時に 一つの尺度として「作業バランス」を使用しています。
これは、人間が行う全ての作業は「仕事(生産)」「余暇」「休息」に分ける事ができ、このバランスが崩れると誰でも健康ではなくなるというものです。(この場合の健康とはWHOが言うところの健康です)
仕事が何にもなくて、毎日休みばかりでも不健康ですし、仕事がたくさんありすぎて、仕事と休息しかできない状態も不健康と言えます。高齢者の多くは、この作業不均衡の状態に陥りやすいので、一人一人それぞれに合った生活を送れるようにスタッフ一同支援していくよう励んでおります。
実は、この作業不均衡になり易い職種として、僕達、介護職が入っているのです。(他には医療職、教職員、飲食等)これは、かなり大変な事態だと思っています。こいつを回避するにはいかに 充実した休息をとれるか、そのように工夫出来るかが鍵になっていきます。
例えば 休みの日に飲みに行くとして、課題を残したまま飲みに行く事と、前日に頑張って課題を何も無い状態にして、飲みに行く事では充足感がまったく違うし、その場に大好きな女の子がいたら更に充足感は十倍は増します。
そんな風に、どう過ごせば自分がいかにエンジョイできるかを考える事は、入居者の生活をより良いものにしていく作業に繋がっていくのかな、と思います。(因みに僕が最近、一番エンジョイ出来た事は、彼女と生まれて初めてメイド喫茶に行った事でその日は1日笑いっぱなしでした)
勿論、入居者様の事を一番に考えていますが、一緒に働いてくれるスタッフも、健康でハッピーに過ごせる職場にできればよいな、と、ふと帰りの電車で考えた事を徒然に書いてみました。
今後とも、ぶなの実を宜しくお願い致します。

15:39 | Posted by admin

【ぶなの実で想うこと】   ぶなの実3F 大和田

2010年10月03日 | ぶなの実::ぶなの実3F

初めまして、ぶなの実Aユニットで働かせていただいています、大和田です。
ぶなの実がオープンして、早いもので4ヶ月目になりました。現在は女性8名、男性1名、計9名のお部屋も埋まり、賑やかで笑いのたえない日々を送っています。
皆さん、いろいろな表情を見せてくださいます。生活の中で、入居者様同士が互いに思いやり、時には言い合い、笑ったり、泣いたりと、そんな瞬間が、私はほほえましく思えます。
ある時、入居者のNさんが、当時は歩いてトイレまで行けるはずがないと思っていたのですが、朝方、歩行器を使ってご自身で行っていたのです。私は、Nさんに聞きました。そうしたら、「一人で行ったよー」と。
危険も伴いますが、その時、私はとても頼もしく思えました。
「一人で歩きたいと思う意欲」「自分で出来ることはするという意志」を感じたからです。Nさんが持っている力を、これからも支援していきたいです。
今は少しずつ、歩行練習をしていますが、いつかきっと歩ける日が来るんじゃないかと待ち望んでいます。私は、介護の仕事を初めてから、いつも思う事があります。
「今日という日はもう来ないのだから、この瞬間を大事に、1日1日大切に過ごしていきたい」と。
これからも、ぶなの実の入居者様と共に笑って生きたいのです。

15:39 | Posted by admin

【新しい仕事】   ぶなの実3F 井口

2010年09月03日 | ぶなの実::ぶなの実3F

はじめまして、ぶなの実 井口です。
今年の四月から働き始めましたが、今までは旅行会社で国内専門の添乗員をしておりました。昨年退職してヘルパー2級を取得したことをきっかけにぶなの実でお世話になっております。
ぶなの実は北区にオープンする新規グループホームでしたので、工事期間に色々なところで研修させていただきました。研修先では、それぞれの生活があり、おうちにお邪魔しているようで楽しい中での勉強でした。
六月からはぶなの実での生活がスタートしましたが、研修のみの経験で不安でいっぱいでした。しかし入居者さんや仲間に、料理や掃除など日々の生活を教わりながら少しずつですができる事が増えてきました。それでも毎日教わることばかり、まだまだ未熟です。だからこそ、このぶなと一緒に成長して実のなる木に生りたいと考えています。これからも新しいお仕事を一生懸命がんばっていきますので、よろしくお願いいたします。

15:38 | Posted by admin

【わたしがTさんの好きなところ―とちの実のやわらかな心の呼吸―】   ぶなの実 佐久間

2010年08月03日 | ぶなの実

Tさんは、だいぶ以前は「のんびり家」に入居されていた。その頃の私は、のんびり家のすぐ近くで、同じ文京区にある「お寺のよこ」という事業所に勤務していた。だから、お寺のよこの利用者と一緒にのんびり家を訪問したときに少し話しをしたり、時たま、路上で買い物や散歩に出ているTさんに出会ったりしていた。多くの思い出はないのだが、ユックリ話し、穏やかな表情の方という記憶はある。
私は、去年の6月にのんびり家から異動となり、とちの実にやってきた。Tさんは、春先に、健康を損ねて入院したのちに、経管栄養のための手術を終えて、とちの実にもどってきていた。食べ物を口から食べられないということ、口から食べることが命とりになる危険性があるということ、栄養剤を人工のチューブで胃に直接流し入れるということ。
最近は、心臓の手術も、血管に沿って細いチューブを心臓まで入れておこなってしまうという。考えれば、考えるほど、体がむず痒くなる。考えすぎると、恐ろしさに感覚は凍りついてしまい、理解は不可能になってしまうこともある。
日常的な想像のはるか先にある静かな日常だ。
未曾有の長寿社会、高度な医療技術の一般化、介護保険制度の社会的浸透、職業的介護従事者の広汎化、そしてそれらを支える社会的な冨の蓄積、どれを失くしてもこのあらたな日常は来なかった。そういう意味では、太くもない人類の歴史の、そのさらに気を失いそうなほど細い糸がこの日常を支えている。
Tさんは、喋らない。時として何日おきかに、「うーん。うーん」と、一息が続く限りに長いうなりを5分ほど繰り返す。苦しそうだ。長いうなりなものだから、聞いている職員も息が少し苦しくなる。「何が苦しいのかな」と考える。
大腸が便を送るために激しく蠕動をして痛むのか?たしか激しい頭痛のともなうことが人によってある既往歴があったから、の可能性はないだろうか?それとも唾が口の中に溜まってしまい飲み込むことが苦痛なのでは?いろいろ考えるが結論など出るはずもないのだが・・・・。ひとしきりに顔を紅潮させて、力一杯のうなりが治まると、穏やかな表情と静かな呼吸のTさんにもどる。何もできなかった私は、ほっとして気持ちが自分にもどる。
Tさんの日常に比して、私たちの日常は明らかに過剰だ。
私たちは、外界からの刺激が緩まると、現実との繋がりが見失われてしまったかのようになる。政治の世界までが「劇場」でなければ成立しない状況は、政治家と非政治家の関係がなにも生み出さないものになりかねないということだと思う。空虚さと過剰さとは同じものに他ならず、そのことに巻き込まれると、ますます巻き込まれていく。
Tさんは、異性へのときめきを表さない。食べる喜びもなく、わけあって食べる喜びもない。誰かと出会っていくために自分と周りに気をつかうこともない。動くのもほんのちょっとだけ。だったらきっと心も体も硬くなるはずだ。
だけれども、Tさんの体はとてもやわらかい。とても柔らかく、少しの緊張もなく介護の手にゆだねている。これはたいへん上級の作法だと気付く(作法などなくともそれはそれでよいのだが)。だから、私たちは、Tさんの体にふれるとほっとする。緊張を強いられずに「しっかりしないと」と思う。なのに、このやわらかさは、病理学の目から見れば、もっとも原始的な幾重にも守られている生体反応としての筋肉を作用させる中枢神経系のある部分がはたらかなくなっているという深刻な状態を表している。
Tさんは、目をつむっている。但し、時たま5分くらい目をあける。その、世界と関わろうとする最小の意思は、私たちがぼーっとしているときよりもしっかりした目つきなものだから、「まるで何かが見えているみたいだ」と思う。黒く澄んだ瞳の眼には、小さく世界の像が写っている。だが何も見えていない。顔を近づけすぎても、手をかざしても、まぶたは動かず、眼球も動かない。そして、また目をつむってしまう。
どうやら私たちは、Tさんの日常のなかに、ものすごい力で引き込まれては、ものすごい力でそとに出てくるという確かで無駄でもない心の呼吸を繰り返しているようなのだ。

15:37 | Posted by admin