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【編集後記】  理事長 志寒

2024年12月03日 | 編集後記

ある日、ある事業所に向かっているときの光景です。
買い物にでも行くのでしょうか、その事業所の職員が二人の入居者さんと歩いていました。職員が真ん中、両手で手をつなぎ、三人が並んで、それぞれが笑顔です。高齢の女性が二人、若い女性が一人。歳も違えば、血もつながってそうでもない。はたから見れば、どんな関係がわかりづらい三人組ですが、まるでいつもそうして生活しているか のように、握っている手を揺らしながら歩いています。
ファイル 625-1.jpgもちろん、職員にとっては業務の一環で、気を張って常に入居者さんの安全確保や状態観察を行っているのでしょう。しかし、職員自身も入居者さんも笑顔で、私はそのあまりに自然なふるまいに、しばらく目を奪われていました。
今年の一月に、共生社会の実現を推進するための認知症基本法が施行されました。そこには「新しい認知症観」がうたわれていますが、はたして新しい認知症観とはなんでしょうか?いわく“なにもできなくなるわけではない”、“能力のある存在である”、“希望をもって生きることができる”など、どれも本当は人間にとって当たり前のことです。いま問い直されているのは、認知症や認知症状態にある人ではなく私たちの方です。必要なのは一定以上で定型の認知機能を前提にしない、そんな人間観なのでしょう。
その新しい人間観が育まれたとき。この三人のような不思議な関係性。そんな風景がありふれたものになっていくのではないのでしょうか。

22:42 | Posted by jizai

【運動会】  ぶなの実 大塚

2024年12月03日 | ぶなの実::ぶなの実3F

10月までは暑い日が続いていましたが、11月に入った途端、急に寒さがやってきましたね。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回はぶなの実の入居者さんについてお話ししたいと思います。
Nさんは今年94歳になりますが、ぶなの実で1番の働き者です。最近、首の痛みがあるNさん。普通なら首が痛いからお部屋で休もうとなる所ですが、Nさんは違います。「首が痛いから散歩に行ってきて良い?気分転換しないと」と仰います。なんて、凄いのでしょう。その元気を私にも少し分けて欲しいくらいです(笑)。
そんなある日、近隣の小学校で運動会がありました。いつもと同様にNさんは「首が痛いから散歩して来るわ」と。そんな時、Sさんが「近くの小学校で運動会をやっているわよ。一緒に行ってみない?」とお誘いしてくださいました(いつもSさんはNさんがお一人で出掛けて迷子にならないか心配してくれています)。
この時間は職員が一人勤務の為、同行出来ず、お二人で近隣のコンビニでジュースを2本購入し、いざ運動会へ。
運動会も昼休憩となり、お二人が戻って来られました。あれ?何か持っている!?と気づいた私は「何を貰ったのですか?」とお聞きしました。するとSさんは「かけっこしたら景品貰っちゃったのよ!」と。すると後ろにいるNさんも持っているではありませんか!!「ばばもついでに走って貰っちゃいました」と笑顔でお話ししてくださいました。
もし職員が同行していたら、走るのは危険だからと止めてしまっていたかもしれない。またお二人も気を使って走らなかったかもしれない。お二人の残存能力はまだまだ未知数だなと感じる事の出来た1日でした。
今ではお二人の走っている姿が見られなかった事がとても残念です。

08:44 | Posted by jizai

【外界からの刺激】  とちの実 渡邉

2024年12月03日 | とちの実

近年の新型コロナウイルス感染症が流行する以前は、日帰り、一泊旅行、お花見などなどの行事、非日常を楽しんでいただく外出に何度もご一緒しました。道中は、ご入居者様が認知症であることを忘れてしまう程、感心する出来事が多く、貴重な経験をさせていただいています。
感染症の蔓延が収まり、再び外出が出来るようになって、A様と映画館に行ったときのことです。
A様は日常、テレビから放送されるショッキングな映像や音声に反応して、「ひやぁ~」と言いながら身震いをしリアクションが大きい方です。
今回鑑賞した映画は、吉永小百合主演の『こんにちは、お母さん』。
歩行が困難な為、車椅子で出向きました。上映場所の車椅子席が最前列の端っこでした。宣伝映像から見始めたので、音量がいちだんと大きく様々な作品予告の見せ場シーンが次々に出てきて、私でさえど迫力に驚き声がでそうになっていました。なので、A様が悲鳴を挙げないかとヒヤヒヤしていました。
しかし、私の心配をよそに、A様は比較的落ち着いて、見上げるように画面を見ておられたのです。時々横に座る私の方をみて、小声で「すごいね」などと話しかける余裕です。
本編が始まると、やや静かなシーンから始まった為、少し目を閉じており、このまま傾眠されるようなら、途中で切り上げることも考慮していましたが、こちらから少し肩を「トントン」と叩くと、少し笑みを浮かべて画面をみなおされていました。
その後、目を閉じていることがチラチラありましたが、最後まで鑑賞されました。
映画の内容を把握していたかはわかりかねますが、さすが大女優と言われる方の演技はA様にも伝わったようで、エンディングの花火シーンで、私にうなずきかけ「きれいね」「よかったね」と仰っていました。
最後まで無事に鑑賞できたことに役目を果たせたとひとまずホッとしたあと、上映場所からロビーに出たところ、A様の口から「あっちに行く」とトイレの方向を指さされたので少しびっくりしながらお連れしました。移動から考えると結構長時間だったので失禁があるのではと思っていたら、自然に用をたされました。
その後、トロミ付きの飲み物を飲まれるA様、暗闇で飲むことを控えさせてもらったので、カフェスペースでココアを 購入しトロミをつけてご提供。
いつも言葉にならない発語が多く、なかなか意思疎通が出来ない方なのですが、お茶を飲みながら「美味しいね」とおっしゃり、映画についてたずねると「良かったね~」と語尾を伸ばし、その表情からも楽しかった事が伝わりました。
帰り際に荷物を持つ私に「それ持とうか」など驚くほどはっきりおっしゃり、とても頼もしくおもえました。A様は終始、にこやかに過ごされ、その横顔が、とても生き生きとされていたのを覚えています。
非日常的な環境のおかげでしょうか?いつもと違う、でも今まで経験したことのある空間が、本来のお姿を呼びもどされたのか?私が知らなかったA様と過ごすことが出来て嬉しく、良い思い出になりました。

08:43 | Posted by jizai