もう何年も前のこと。朝食の席にて、ある男性の入居者さん(Aさん)が、しかめっ面をしてご飯をかきこんで食べておられるのを見ました。ときどきそういったご様子がありました。あまり美味しく食べているようには見えない。取り立てて食前に気を悪くするようなことはなかったと思うし、嫌いな料理を食べているわけでもない。こちらでは計り知れないお気持ちがあったのでしょう。 じつは私はこのAさんが美味しくなさそうに朝食を食べる姿が好きでした。食べたくないときは食べないという選択も、ときによいと思います。それはAさんもよくお分かりだったと思います。しかしAさんは食べる。頑張って食べる・・・。 私はAさんのその姿から「俺は何がなんでも生き抜くぞ!」という決意を感じて、胸にぐっときたのをよく覚えています。 私達はできるだけ、入居者さんに美味しく楽しく食べてもらえるように支援をしますが、頑張って食べる、というのもいいものだなと、そのときに思った次第です。
それから何年かしてAさんは食べることが難しくなり、また、私達の力では支えることができないご状態となり、とちの実をご退去されました。あれほど食べて生きる意思を表出していたAさんを最後まで支援できなかったことは本当に申し訳なく、歯がゆく、落ち込みました。他にもっとできることがあったのではないかと。
食べることについて、Aさんから学んだことは今、私ほかとちの実の職員のバックボーンになっています。生活支援の中でも食事に関することはとりわけウェートが大きく、幅広く奥も深いです。また、ご
高齢の方にとっての思わぬ危険も隠れています。入居者さんに能力を発揮してもらい、安全に楽しく美味しく食べて頂けるよう、今後とも支援の質の向上を目指していきたいと思います。